診療575日目、最新・海外のセルフケア事情
2024年9月5日
こんにちは、椎名町駅えがお歯科です。
・・・実は本日より当院に新たな歯科衛生士さんがやってきます!
先月より合わせて2人目の新メンバーにドキドキワクワクです☺️
という、近況報告も挟みつつ、本日は「海外の最新セルフケア」のご紹介です!
普段はブログ担当の思いつきや気になることを主だって認めていますが、
たまにはトレンドも押さえていこうと思います🔥
フロスより歯間ブラシが主流?!
海外のセルフケア事情から読み解く、これからの予防歯科のあり方
歯科界では何かと比較される機会が多い、日本と海外の歯科医療。
その中でも欧米諸国で規定されている基準や考え方については、
あらゆるセミナーや書籍で紹介されることが多く、日本の歯科医療従事者にとって臨床のヒントとなるエッセンスが多く含まれています。
今回は、スイスに本社を構える株式会社クラデンジャパン(以下、クラデン社)代表の池亀友氏に、
海外のセルフケア事情について伺いました。欧米諸国に何度も訪れた池亀氏だからこそわかる、
ありのままの海外事情を紹介した上で、そこから学ぶべき日本の予防歯科のあり方について一緒に考えていきましょう。
“FLOSS OR DIE”はもう時代遅れ?!
近年の海外のセルフケア事情とは?
1997年にアメリカ歯周病学会が発表した衝撃的なスローガン、それが「Floss or Die」です。
皆さんの中にもワードとして聞いたことはありますか?
ブログ担当は、今回初めて目にしました😳⚡️
この広告は、歯周病予防のキャンペーンで作られた広告で、フロスをしていないと口腔内細菌が
身体のさまざまな器官に悪影響を及すため、フロスを使ってブラッシングをしようという内容が記載されています。
アメリカでは約100年前から、国を挙げてデンタルフロスの使用が推奨されてきました。
フロスをするか死ぬか!
ちょっと過激なんじゃない!?という表現ですが、それほど歯周病予防にデンタルフロスが大事ですよ、
という思いが込められているのだと思います。
しかし、数年前にAP通信が報じた記事が話題になりました。
「フロスの有効性を証明する論文の科学的根拠が乏しい」というものです。要するに論文に問題がある
という内容だったのですが、なんとこれがきっかけでアメリカの食事生活指針からデンタルフロスが削除されるという事態にまで発展してしまいました。
なんとアメリカらしいエピソードでしょう・・・
もちろん、科学的根拠が乏しいのだから国としては支持しづらいということではあるのでしょう。
でも、この記事によって、デンタルフロスは効果がないと早合点してしまうのはちょっと待ってください!!
しかし2000年に入って間もなく、米国心臓病学会はこの広告の内容を真っ向から否定しました。
2017年11月には、アメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)共催のワークショップが
米国シカゴで開催され、そのワークショップで得られたコンセンサスをもとに作られた
EFPのガイドラインでは、以下のように歯間ブラシによる歯間部清掃が推奨されています。
そのためヨーロッパでは、歯間ブラシが歯間清掃用具の第一選択と考えられてきているが、
日本においては、まだまだ歯間部清掃に対する知識や情報がアップデートされていない状況が散見されているでしょう。
EFPのガイドラインにおいては、歯周病治療として4つの連続したステップが推奨されています。
1. 良好な口腔衛生状態と健康的なライフスタイルにより炎症を抑えることは、治療に対する
最適な生体反応を引き出すことや長期に渡り疾患をコントロールのための基礎である。このステップには、
プロフェッショナルによる歯肉縁上のバクテリア(プラークや歯石)の除去も含まれる。
2. プロフェッショナルによる歯肉縁下の歯根面の徹底的なクリニーングと、必要に応じたさらなる治療。
3. 患者によっては、外科処置などのより複雑な治療が必要となる。
4. 歯周病の再発を防ぐためには、長期に渡るサポーティブなケア、それに伴う健康的なライフスタイル、
良好な口腔衛生状態、そしてクリーニングを含む定期検診が必要となる。
東京医科歯科大学名誉教授の田上順次先生は、このガイドラインについて、以下のように語っています。
「2017年に開催された「歯周炎の分類に関する世界ワークショップ」では、歯周炎という疾患の程度と
範囲だけでなく、複雑さの程度や個人のリスクについても言及されていた。これを受け、欧州歯周病学会連盟(EFP)は、
本臨床治療ガイドラインを策定した。GRADEという手法によるもので、信頼性の高い(S3)ガイドラインである。
このガイドラインでは、治療の種々の段階での治療方法や、SPC(歯周病安定期のケア)における対応について、
どの程度の強さで推奨されるかが、エビデンスの質をもとに提示されている。現代における、歯周病の治療と予防に
関する最新のデータに基づく信頼性の高い指針であるといえるだろう。
ここでは、SPC中の歯間部のプラークコントロールに関して、「歯間ブラシの使用」が最高位の推奨(Grade A)となっている。
一方興味深いのは、「デンタルフロスの使用」については、歯周病安定期のケアにおいての歯間部清掃の第一選択としては推奨しない
(Grade B)としていることである。デンタルフロスと歯間ブラシの選択について、EFPとして明確に示したもので、我々としても即座に臨床に反映すべき内容である。」
クラデン社では毎年、セルフケア用品の売上についての市場調査を実施しました。2022年のデータによると、
一般市場における歯間ブラシとフロスの売上は、それぞれ80億円と70億7,000万円で大きな差はありません。
一方、歯科医院市場においては、歯間ブラシが27億2,000万円、フロスが13億3,400万円と売上額に2倍以上の差が出ている。
この結果から、歯科医院市場では歯間ブラシの重要性が認知されてきているものの、一般市場にはまだ伝わり切っていない
ということが読み取れるのではないだろうか。ここに関しては、歯科医院だけでなく歯科企業からの啓発も今後の課題として挙げられるのかもしれない。
欧米諸国では、なぜ高濃度のフッ化物配合歯磨剤や洗口剤が簡単に手に入れられる?
近年では日本国内外問わず、さまざまなセルフケア用品が販売されており、
多くの消費者が歯科医院以外の場所でも簡単にセルフケア用品を購入することができます。
特に欧米諸国においては、日本だと歯科専売品として取り扱うような製品でも、スーパーやドラッグストアなどで
手に入れることができ、高濃度のフッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤、クロルヘキシジン配合洗口剤等が販売されています。
海外旅行のお土産のまとめサイトなどにもよく紹介されていますね。
例えばフッ化物配合歯磨剤の場合、日本では1,450ppmFがもっとも高濃度の歯磨剤として販売されているのに対し、
欧米諸国では5,000ppmFの歯磨剤が、しかもドラッグストアで販売されています。
では、なぜ欧米諸国では、そんなにも高濃度のセルフケア用品を手軽に手に入れられるのでしょうか。
その理由の一つに、欧米諸国では、
歯科医院で処方されたセルフケア用品をドラッグストアで購入するということが習慣化されている国が多いということが挙げられます。
それに対し、歯科医院で指導したセルフケア用品を、患者にその場で購入してもらうというモデルが、
古くから確立されている日本の歯科医院です。そんな日本だからこそ提供できる予防歯科が、きっとあるに違いのです。
日本だからこそできる理想的な予防歯科のあり方に迫る!
日本において、セルフケア用品を歯科医院で購入する患者が増えていることはご存じでしょうか?
当院でも定期検診以外でもセルフケア用品だけを購入にお越しいただく患者様も増えてまいりました。
前述したクラデン社が行った市場調査によると、歯ブラシの歯科医院市場は年々増加の傾向を辿っており、
2022年時点で全体の2割以上を占めています。
このことからは、院内で処方される歯ブラシの需要が高まっていることが伺えるのではないでしょうか。
先述した通り、日本では患者が歯科医院でセルフケア用品を購入できる環境が整っており、
質の高いプロケアとセルフケアを両立させやすいと考えられます。しかし欧米諸国に比べると、
根拠のある濃度で製品化されているセルフケア用品は少ないのです。
したがって、化学的アプローチが十分に効果を発揮できない可能性がある分、
機械的アプローチの重要性がより高くなってくると期待もできます。
SPTやP重防が保険算定できるようになった現代では、日本ではメインテナンスを比較的安価で受けられます。
欧米諸国では日本の約3~5倍ほどの費用がかかるため、患者負担は先進国の中でも圧倒的に低いのです。
それならば、日本だからこそできるところに目を向け、プロケアおよびセルフケアで徹底的な機械的アプローチを行えるよう、
努めていくことが重要ではないでしょうか。