診療890日目、現代人は歯並びが悪くなりやすいのか
2026年1月20日
こん日は、椎名町駅えがお歯科です。
なぜ現代人は歯並びが悪くなりやすいのか
――食生活だけでは語れない、進化・遺伝・ライフスタイルの複雑な関係
歯列矯正や外科的矯正治療は、もはや特別なものではありません。
「歯並びを整えたい」「口元の印象を良くしたい」という理由で、多くの人が治療を選択しています。
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では、そもそも疑問に思いませんか。
人類は何万年も生き延びてきたのに、なぜ現代になってこれほど“不正咬合”が目立つようになったのでしょうか。
研究者たちの見解は一致しています。
答えは単純ではなく、進化・食生活・遺伝・現代の生活習慣が複雑に絡み合った結果だというのです。
不正咬合は昔から存在していたが、頻度が違う

歯の叢生(そうせい)や歯列のずれといった不正咬合は、実は現代人だけの問題ではありません。
狩猟採集民の頭蓋骨からも、歯の埋伏や咬合異常は確認されています。
ただし、発生頻度と重症度は明らかに異なります。
産業革命以降、とくに近代〜現代にかけて、不正咬合は「一般的な状態」になったと考えられています。
この変化を説明する際、まず注目されるのが「食生活」です。
農耕の開始が顎の形を変えた
初期の狩猟採集民は、
- 硬い獣肉
- 繊維質の野菜
- 木の実や種子
といった、強い咀嚼力を必要とする食物を常食していました。
それに適応するため、
✔ 大きく前方に張り出した下顎
✔ 発達した咀嚼筋(咬筋・側頭筋)
✔ 十分な歯列弓の幅
を持っていたと考えられています。

しかし約1万2000年前、人類が農耕を始めると状況は一変します。
穀物を粉砕し、加熱・加工することで、食物は次第に軟らかく、噛みやすいものへと変化しました。
これにより、顎にかかる機械的ストレス(メカニカルロード)は大きく低下します。
顎は「使われなければ育たない」
骨は静的な構造物ではありません。

一生を通じて、筋肉からの牽引や咀嚼による刺激に反応し、形態を変化させます。
実験動物の研究では、
液体食や軟食を与えた群では、
- 咀嚼筋の萎縮
- 下顎骨の小型化
- 顔面形態の変化
が明確に確認されています。

つまり、
噛まない生活=顎を成長させない生活
という関係が成り立つのです。
進化だけでは説明できない「速すぎる変化」
一方で、近年の研究は「進化論だけでは説明がつかない」とも指摘しています。
人類の顎の変化、特にここ数百年の変化は、
遺伝的進化としてはあまりにスピードが速い。
スタンフォード大学の研究チームは、
- 姿勢(猫背・前傾姿勢)
- 口呼吸
- 舌位の低下
といったライフスタイル要因が、顎の発達に大きく影響している可能性を示唆しています。
これは「世代を超えた進化」ではなく、
一人の成長過程の中で起こる形態変化です。
歯の数は変わらない、顎だけが小さくなる
ここで問題が生じます。
歯の本数やサイズは、急激には変化しません。
結果として起こるのが、
顎骨と歯のサイズの不調和(ディスクレパンシー)です。
- 歯が並ぶスペースが足りない
- 歯が重なり合う(叢生)
- 親知らずが萌出できない
こうした状態は、下顎が小型化した現代人に特有の現象といえます。
遺伝的要因も無視できない
不正咬合のすべてが環境要因ではありません。
- 上顎前突(いわゆる出っ歯)
- 下顎前突(受け口)
- 歯のサイズや形態
これらには、明確な遺伝的背景があります。
特定の集団に特定の咬合様式が多く見られるのは、産業化とは無関係なケースも少なくありません。
「増えた」のか、「気づかれるようになった」のか

現代では、
- 審美歯科の普及
- SNSや写真文化
- 顔貌への関心の高まり
により、歯並びへの意識が格段に高まっています。
そのため、
昔なら問題視されなかった程度の不正咬合も、治療対象として認識される
という側面もあります。
不正咬合が「増えているように見える」理由には、
医学的変化と社会的価値観の変化、両方が関係しているのです。
歯並びは、現代を生きる私たちの“環境適応”
歯並びの問題は、
✔ 食生活
✔ 成長期の習慣
✔ 遺伝
✔ 美意識の変化
これらが重なって生じる、極めて現代的な現象です。
だからこそ、
「歯並びが気になる」のは、努力不足でも特別な問題でもありません。
今の時代に生きる、ごく自然な悩み。
そして、きちんと向き合えば整えられる選択肢がある、ということでもあります。
口元は、第一印象を大きく左右します。
気になった“今”が、向き合うベストタイミングかもしれません。
——歯は、あなたの笑顔の名刺です。






