診療353日目、「入れ歯の日」 入れ歯を巡る苦しい事情
2023年10月17日
こんにちは、椎名町駅えがお歯科です。
10月8日は「入れ歯の日」でした!
昨日に引き続き、●●の日のご紹介です。
◇入れ歯を巡る苦しい事情
10月8日は「入れ歯の日」。
「いれば」と読める日付の語呂合わせから、歯の健康や治療の大切さを知ってもらおうと
1992年に定められました。2023年の入れ歯事情はどうなっているでしょうか。
探ってみると、なんとも苦しい様子が浮かんできました。
「入れ歯の日」に先立つ6日、札幌市の北海道神宮頓宮で、市内の歯科
「コンフォート入れ歯クリニック」の池田昭院長らスタッフ約10人が「入れ歯供養祭」に
臨まれました。厳かな雰囲気の中、祭壇に向かって頭を下げる人たちの前で、神主が感謝の言葉を
述べながらおおぬさを振っておはらいされました。
供養祭は、持ち主が亡くなった後にひつぎに入れられず、ゴミとして処分できずに自宅で保管されている
入れ歯を引き取り、19年から続けている。23年は約50個が供養された。
十分に使用して役目を終えた入れ歯もある。供養後は金属部分を取り出し、換金して災害支援NPOに寄付するという。
池田院長は「長く愛用された入れ歯をゴミとして捨てるのは忍びないというご遺族の気持ちに
寄り添えればと思って毎年実施しています。入れ歯をつくり、治療に当たりながら生活する者として、
感謝の気持ちを示したいです」と話す。
◇総入れ歯は意外にも…
「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」。国などはそんなスローガンのもと、
0歳で20本以上の歯を保つ「8020運動」を推奨している。
厚生労働省が22年に全国の2709人を調べた歯科疾患実態調査によると、「80歳で20本以上の歯」が
ある人の割合は51・6%と推計される。2人に1人が入れ歯がなくてもほとんどの食べ物を食べられる状態だという。
40代以上の全ての年代でもその割合は過去と比べて上昇している。
一方、5年に1度実施するこの調査では、割合は少ないものの40代から総入れ歯を使用し始める人が
ほぼ毎調査で見られ、意外にも若い時期から入れ歯を装着していることも分かる。
歯を失った状態を放置しているとかみ合わせのバランスを欠いて他の歯にも負担がかかるほか、
顔の形や全身の健康にも影響を及ぼすといわれる。池田院長は「患者の中には30~40代の女性で
歯周病が進んで歯を抜くという人もいました。定期的に検診を受けて歯の状態を確認することや、
早期の入れ歯治療が重要です」と訴える。
◇素材高 診療費の値上げ次々
そんな入れ歯治療は今、苦境に立たされている。入れ歯をつくる素材の供給が不安定だからだ。
銀歯や部分入れ歯の金具などに使われるレアメタル(希少金属)のパラジウムは、自動車の排ガス浄化触媒や
スマートフォンなどに使われ、近年は値上がりが続いている。
それに加え、ウクライナ情勢が影を落としている。パラジウムの主要産出国であるロシアは、
世界の生産量の4割を占める。ウクライナ侵攻に伴う供給不安から、価格の高騰に拍車をかけている。
医療機関が治療した際に公的医療保険から受け取る「公定価格」は、パラジウムは21年10月時点の
1グラム2951円から、ウクライナ情勢により供給不足が深刻化した22年7月は3715円にまではね上がった。
現在は一時期に比べて落ち着いてきたものの、23年10月時点で3095円と高い水準を維持している。
総入れ歯に使う金など、他の歯科金属も軒並み価格が上昇しているという。
価格の変動幅が大きいパラジウムなどの公定価格は年4回(22年は緊急的に5回)見直される。
だが、見直しは改定3カ月前までの素材価格を元に算定され、日々変動する金属価格が
タイムリーに反映されないため、価格上昇が続くと仕入れ値が治療費を上回る。
こうした状況に診療費を値上げする歯科医院が相次いでいる。
.
日本歯科医師会は「(保険が適用されない)自由診療の価格設定はそれぞれの歯科医院で異なり把握していない」
としつつも、「約2割高くなったと言えます。今後は金属を使用しないメタルフリー材料の開発や、
入れ歯製造などの医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及などによる改善策を歯科界一丸となって検討していきたい」とコメント。8月に西村康稔・経済産業相を訪ね、歯科用金属の安定供給や物価高騰への対策などを要望した。
.
◇金属を換金 寄付の動き
一方、入れ歯に使われた金属を換金して寄付に回す動きもある。NPO法人「日本入れ歯リサイクル協会」は公共施設などにボックスを設置して入れ歯を回収し、金属を換金した後に社会福祉協議会や国連児童基金(ユニセフ)に寄付する活動を続けている。
近年は個人や自治体などが入れ歯を換金することが増えていることもあり、リサイクル協会への寄付自体は減ってはいるものの、1キロ当たり8000~9000円と約20年前から3倍に高騰しているため、寄付金の総額は約10年前から1000万円前後で推移しているという。ただ、担当者は「金の価格がこれ以上上がるとは思わないので寄付額は緩やかに減っていくのではないでしょうか」と話している。